タン塀や煉瓦塀に変るのであろう。からたち[#「からたち」に傍点]で有名なのは、本郷竜岡町の麟祥院である。かの春日局の寺で、大きい寺域の周囲が総てからたち[#「からたち」に傍点]の生垣で包まれているので、俗にからたち[#「からたち」に傍点]寺と呼ばれていた。江戸以来の遺物として、東京市内にこれだけの生垣を見るのは珍しいといわれていたのであるが、明治二十四年の市区改正のために、その生垣の大部分を取除かれ、その後もだんだんに削り去られて、今は殆ど跡方《あとかた》もないようになってしまった。
[#天から3字下げ]からたちや春日局の寺の咲く
 わたしは昔、こんな句を作ったことがあるが、そのからたち[#「からたち」に傍点]寺も名のみとなった。
 からたち[#「からたち」に傍点]や杉の生垣を作るのは、犬や盗賊の侵入を防ぐがためである。殊にからたち[#「からたち」に傍点]は茨のようなトゲを持っているので、それを掻《か》き分けるのは困難であると見做されていた。しかも今日のような時代となっては、犬は格別、盗賊はからたち[#「からたち」に傍点]のトゲぐらいを恐れないであろうから、かたがた以てからたち[#「か
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