たらしい旧式の建物に限るようである。さもなければ、寺である。寺も杉や柾木《まさき》やからたち[#「からたち」に傍点]をめぐらしているのは新しい建築でない。
 要するにからたち[#「からたち」に傍点]は古家や古寺にふさわしいような、一種の幽暗な気分を醸し成す植物であるらしい。からたち[#「からたち」に傍点]の生垣のつづいているような場所は、昼でも往来が少い。まして夕方になるといよいよ寂しい。その薄暗い中に、からたち[#「からたち」に傍点]の花が白くぼんやりと開いている。どう考えても、さびしい花である。
 俳句にもからたち[#「からたち」に傍点]の花という題があるが、あまり沢山の作例もなく、名句もないようである。からたちは木振りといい、葉といい、花といい、総ての感じが現代的でない。大東京出現と共にだんだんに亡びゆく植物のように思われて、いよいよ哀れに、いよいよ寂しく眺められる。前にいった場末の屋敷町や、新東京の住宅地などを通行して、その緑の葉が埃を浴びたように白っぽくなっているのを見ると、わたしはなんだか暗いような心持になる。これらのからたち[#「からたち」に傍点]もやがては抜き去られてト
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