目黒の寺
岡本綺堂

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)麹町《こうじまち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−

 住み馴れた麹町《こうじまち》を去って、目黒に移住してから足かけ六年になる。そのあいだに『目黒町誌』をたよりにして、区内の旧蹟や名所などを尋ね廻っているが、目黒もなかなか広い。殊《こと》に新市域に編入されてからは、碑衾町《ひぶすまちょう》をも包含することになったので、私のような出不精の者には容易に廻り切れない。
 ほか土地はともあれ、せめて自分の居住する区内の地理だけでも一通りは心得ておくべきであると思いながら、いまだに果し得ないのは甚だお恥かしい次第である。その罪ほろぼしというわけでもないが、目黒の寺々について少しばかり思い附いたことを書いてみる。

 目黒には有名な寺が多い。先《ま》ず第一には目黒不動として知られている下目黒の滝泉寺《りゅうせんじ》、祐天上人開山として知られている中目黒の祐天寺、政岡《まさおか》の墓の所在地として知られている上目黒の正覚寺《しょうがくじ》などを始めとして、
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング