木曽の怪物
――「日本妖怪実譚」より
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)拠《よんどこ》ろ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)又|立止《たちどま》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)顫《ふる》えて[#「顫《ふる》えて」は底本では「顛《ふる》えて」]
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 これは亡父の物語。頃は去る明治二十三年の春三月、父は拠《よんどこ》ろなき所用あって信州軽井沢へ赴いて、凡《およ》そ半月ばかりも此の駅《しゅく》に逗留していた。東京では新暦の雛の節句、梅も大方は散《ちり》尽《つ》くした頃であるが、名にし負う信濃路は二月の末から降《ふり》つづく大雪で宿屋より外へは一歩《ひとあし》も踏出されぬ位、日々炉を囲んで春の寒さに顫《ふる》えて[#「顫《ふる》えて」は底本では「顛《ふる》えて」]いると、ある日の夕ぐれ、山の猟師が一匹、鹿の鮮血《なまち》滴るのを担いで来て、何《ど》うか買って呉れという。ソコで其の片股《かたもも》だけ買う事に決めて、相当の価《あたい》を払い、若《もし》も暇ならば遊びに来いと云うと、田舎漢《いなかもの
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