は蝉の声もいつか衰えて、初秋のうすい日影は霧につつまれたように暮れかかった。屋敷町の門前にも盆燈籠を売るあきんどが通った。
白い帷子《かたびら》に水色の羽織を着た外記が門を出た。
八
箕輪のお時の家でも仏壇に精霊棚《しょうりょうだな》を作って、茄子《なす》の牛や瓜《うり》の馬が供えられた。かわらけの油皿《あぶらざら》には燈心の灯が微かに揺らめいていた。六十ばかりの痩せた僧が仏壇の前で棚経《たなぎょう》を読んでいた。
回向《えこう》が済むと、僧は十吉が汲んで来た番茶を飲みながら、きょうは朝から湯島神田|下谷《したや》浅草の檀家を七、八軒、それから廓《くるわ》を五、六軒まわって来たが、なかなか暑いことであったなどと口では忙がしそうなことを言いながら、悠々と腰を据えて話し込んでいた。寺は下谷にあるが、今どきに珍らしい無欲の僧で、ここらは閑静でいいと頻《しき》りに羨ましそうに言った。
「おお、池の蓮が見事に開きましたのう」
彼は帰るきわに蓮池をしばらく眺めていた。いつも気軽な和尚さまだと、帰ったあとでお時が噂をしていた。
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※[#歌記号、1−3−28
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