さま。それでは違います」と、外記は眠そうな声で注意した。
「何が違う」と、五郎三郎も眼が醒めたように盤を睨んだ。
「お前さまのこの石はもう死んでおります」
「馬鹿を申すな。なんでこれが死ぬものか」
「でも、これは……」と、外記も行きがかりで争った。
「ええ、卑怯なことを申すな」
こう言い募って来るうちに、五郎三郎の血はのぼって来た。機会は今だ、と心の奥からささやかれて、彼は再び盤を指した。
「これ、よく見ろ。この石はこう切ったのだ」
切るという自分のことばで、自分にはずみを付けて、五郎三郎の手が刀の柄にかかったかと思うと彼は抜き撃ちに切り付けた。外記も武芸の心得はある。躱《かわ》したからだに初太刀《しょだち》は空を撃たせて、二度目の切っさきは碁盤で受け留めた。茶を持って来たお縫は驚いて声を立てた。三左衛門も駈けつけて来た。
五郎三郎ももう隠す訳にも行かなくなって、盤の上の一目二目の争いから、分別盛りの侍がおとなげない刃物|三昧《ざんまい》をしたと思うな、家のため、親類縁者のためには、どうしても甥一人を殺すよりほかはないのだという自分の決心を明かして聞かせた。そうして外記にむかって
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