たが、万一遠い甲州へ追いやられたら、しょせん綾衣に逢うすべはない。二人を結び合わせた堅いきずなも永久に断たれてしまわなければならない。男に取ってはそれが何よりも苦痛であった。
黙って聴いている女の思いも、やはり同じどん底へ落ちて行った。半年のうちには大難があると言った占い者の予言は、焼金《やきがね》のように女の胸をじりじりとただらして来た。
綾衣の膝からすべり落ちた三栖紙《みすがみ》は白くくずれて、彼女は懐ろ手の襟に頤《あご》を埋めた。何か言いたい大事なことが喉まで突っかけて来ていても、今はまだ言うべき時節でないと無理に呑み込んで、彼女はきっと口を結んでいた。
やわらかい雨の音はささやくように低くひびいた。近所の小店《こみせ》で時を打つ柝《き》の音が拍子を取って遠くきこえるのも寂しかった。行燈の暗いのに気がついて、綾衣は袂をくわえながら、片手で燈心をかかげた。その片明かりに映った外記の顔はいよいよ蒼白かった。
「まあ、いい。その時はその時のことだ。取り越し苦労をするだけが馬鹿というものだ」と、外記は捨て鉢になったように言った。
「ほんとうに、どうなるやら知れない先きのことを、前か
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