頬に、鬢《びん》のおくれ毛が微かにふるえているのも美しいようでいじらしかった。
「でも、いつまでもこの通りでいなんしたら、遅かれ速かれ、やっぱり一間住居に決まりんしょうが……」
「一間住居は蹴破っても出る」と、男の眼には反抗の強い光りがひらめいた。
綾衣はぞっとするほど嬉しかった。彼女はいつもこの強いひとみに魅せられるのであった。
「しかし甲府勝手《こうふがって》と来ると、少しむずかしい」と、男はまた投げ出すように言った。
「甲府勝手とは何でありんすえ」
「遠い甲州へ追いやられるのだ。つまり山流しの格だ」
もうどうしても手に負えないと見ると、支配頭から甲府勝手というのを申し渡される。表向きは甲府の城に在番という名儀ではあるが、まず一種の島流し同様で、大抵は生きて再び江戸へ帰られる目当てはない。一生を暗い山奥に終らなければならないので、さすがの道楽者も甲府勝手と聞くとふるえあがって、余儀なく兜を脱ぐのが習いであった。
一間住居から甲府勝手、こうだんだんに運命を畳み込んで来れば、その身の滅亡は決まっている。勿論、出世の見込みなどがあろう筈はない。外記はそれすらも敢《あ》えて恐れなかっ
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