に見えなくなったんですか。」と、高谷君は眉《まゆ》をよせながら訊《き》いた。
「そうです。いつでも夜なかから夜明けまでのうちに見えなくなるんです。今までは原住民に限られていたんですが、今度は日本人の方へもお鉢が廻って来たので、みんなはいよいよ騒ぎ出して、どうしても此処《ここ》にはいられないというんです。しかし折角これまで経営した仕事を今さら中途で放棄するのも残念ですから、私もいろいろに理解を加えて、まあ当分は踏みとどまっていることにしたんですが、怖くってここには寝られないというので、急に隣りの小さい島へ小屋掛けをして、日が暮れるとみなそこへ行って寝ることにして、夜があけるとこっちへ出て来るんです。実に不便で困るんですが、さし当りはそうするよりほかにないんです。お察しください。」
 丸山もよほど困っているらしく、その男らしい太い眉をくもらせて話した。高谷君も息をのみ込んでこの不思議な話を聞いていた。
「で、その行くえ不明になった人間というのは、その後になんの手がかりもないんですか。」
「ありません。」と、丸山はすぐに頭《かぶり》をふった。「無論に手分けをしていろいろに穿索《せんさく》した
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