住民の女が突然に行くえ不明になったんです。どこへ行ったのか判りません。結局は河縁《かわべり》へ水を汲みに行って、滑り落ちて海の方へ押流されて、鱶《ふか》にでも食われたんだろうという事になってしまいました。するとそれから三日ばかり経って、またひとりの原住民が見えなくなったんです。こうなると、騒ぎがいよいよ大きくなって、これはどうも唯事ではない。むかしの禍《わざわ》いがまた繰返されるのではないかという恐怖に襲われて、気の弱い、迷信の強い原住民たちはそろそろ逃げ支度に取りかかるのを、わたくしが無理におさえて、まあ五、六日は無事に済んだのですが、今月にはいって四日ほど経つと、またひとりの原住民が見えなくなる。つづいて二日目にまた一人、都合四人も消えてなくなったんですから、わたしも実に驚きました。まして原住民たちはもう生きている空もないようにふるえあがって、仕事もろくろく手につかないという始末で、わたしも弱り切っていますと、いい塩梅《あんばい》に小《こ》半月ばかりは何事もないので、少し安心する間もなく、六日前にまた一人、今度は日本人が行くえ不明になったんです。」
「日本人が……。やっぱり夜のうち
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