るつもりであったが、あまりに人なつかしく持成《もてな》されるので、高谷君も早くは起《た》てなくなって、いろいろの話に二時間あまりを費してしまった。そのうちに丸山はこんなことを言い出した。
「この頃はここらに可怪《おかし》なことが始まりましてね。労働者がみんな逃げ腰になって困るんですよ。」
「おかしなこと……。どんなことが始まったんです。」
「人間がなくなるんです。先月からもう五人ばかり行くえ不明になりました。」と、丸山は顔をしかめながら話した。
「どうしたんでしょう。」
「判りません。なんでも四、五年前にもそんなことが続いたので、今までここに在住していたオランダ人はみんな立退《たちの》いてしまって、しばらく無人島のようになっていた所へ、我れわれが三年まえから移って来て、今まで無事に事業をつづけていたんです。勿論、来た当座は十分に警戒していましたが、別に変ったこともないので、みんなも安心していました。原住民たちも一時は隣りの島へ立退いていたんですが、これもだんだんに戻って来て、今ではこうして我れわれと一緒に働いています。ところが、先月の末、二十五日の晩でした。この小屋の近所に住んでいる原
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