の青年が外からはいって来た。年のころは十八、九で、これもこういう南洋生活をしているにふさわしい、見るから頑丈らしい男であった。かれは茶っぽい縮《ちぢみ》のシャツを着て、麻のズボンをはいていた。
 天草《あまくさ》の生れで、弥坂勇造という男であると、丸山はこれを高谷君に紹介した。勇造は丸山のボーイ代りに働いているらしく、かいがいしく立廻って、チョコレートやビスケットなどを運んで来た。マニラ煙草も持って来た。
「なにしろ、よくお出でくだすった。」と、丸山はいかにも打解けたように言った。「内地の人も随分こっちへ来るようですけれども、大抵はおもな島々をひと廻りするだけで、こんなところまでは滅多《めった》に廻って来る人はありません。毎日おなじ人の顔ばかり見ているんですから、まったく内地の人はお懐かしいんですよ。」
 実際、かれらは高谷君を歓迎しているらしく、大切にしまってあったらしい葡萄酒の口をぬいて高谷君にすすめた。缶詰の肉や魚なども皿に盛って出した。ここらの島に住んでいる人としては、出来るかぎりの歓待を尽くされて、高谷君も気の毒になって来た。はじめの予定ではほんの一時間ぐらい見廻ってすぐに帰
前へ 次へ
全24ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング