笑った。
「さようですか。まあ、こちらへいらっしゃい。この島にはそうたくさんもありませんが、それでも相当に麻畑があります。わたしがすぐに御案内します。わたしは丸山俊吉という者です。」
かれは日本の人で、三年ほど前からこっちへ来て、日本人と原住民とを合せて七十人ばかりの労働者の監督をしていると言った。高谷君は彼のあとについて堤から十町ほども行くと、広い麻畑が眼の前にひろがって、芭蕉《ばしょう》に似た大きい葉が西南の風になびいていた。丸山はその一年の産額や品質などをいちいち詳しく説明してくれた。
「まあ、我れわれの小屋へいらっしゃい。お茶でもいれますから。」
それからまた二町ほども行くと、そこに大きい家があった。屋根はトタンでふいて、三方は日本風の板羽目になっていたが、そのひどく破損しているのが高谷君の眼についた。案内されて内へはいると、中は一面の土間になっていて、部屋の隅には寝台と毛布がみえた。棚の上には酒の壜《びん》や缶詰のたぐいも乗せてあった。ふたりはまん中に据えてある丸いテーブルを囲んで、粗末な椅子に腰をおろした。
「おい、勇造、お客様だ。早く来い。」
丸山に呼ばれて、ひとり
前へ
次へ
全24ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング