の姿は見えなくなってしまった。それでもふたりは強情に彼の名を呼んで、びしょ濡れになってそこらを駈け廻ったが、どうしても彼のすがたは見付からなかった。
 雷雨はそれから三十分ほどの後に晴れて、明るい月が水を照らした。ふたりは堤から麻畑を隈《くま》なく探してあるいたが、その結果は、いたずらに疲労を増すばかりであった。ふたりはもう我慢にも歩かれなくなって、這《は》うようにして小屋に帰って、そのまま寝床の上に倒れてしまった。
 夜があけてから労働者が戻って来た。かれらはゆうべの話をきいて蒼くなった。大勢が手分けをして捜索に出たが、勇造の行くえはどうしても判らなかった。いつまでもここに残っているわけにもいかないので、高谷君はその日の午後に麻畑の小屋を出た。別れるときに丸山は言った。
「もういけません。労働者たちはどうしても此処《ここ》にいるのはいやだと言いますから、わたしも残念ながらこの島を立去って隣りの島へ引移ります。弥坂は実に可哀そうなことをしました。しかしゆうべの出来事から、私はこういうことを初めて発見しました。怪物は猿でもない、蟒蛇《うわばみ》でもない、野蛮人でもない。たしかに人間の眼に
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