は見えないものです。ピストルでも罠《わな》でも捕《と》ることの出来ないものです。眼に見えないその怪物に誘い出されて、みんなあの河へ吸い込まれてしまうのです。」
「私もそんなことだろうと思います。ほかの者がそう言うなら、あなたももう諦めてここをお立退きなすった方が安全でしょう。」と、高谷君も彼に注意した。
「ありがとうございます。そんなら御機嫌よろしゅう。」
「あなたも御機嫌よろしゅう。」
大勢は河の入口まで送って来た。高谷君はもとのボートに乗って元船へ帰った。
この話のあとへ、高谷君は付け加えてこう言った。
「船へ帰ってからその話をすると、船員も他の乗客も、みんな不思議がっているばかりで、何がなんだか判らない。船に乗組んでいる医師の意見では、この怪物はむろん動物でもない、人間でもない、一種の病気――まあ、熱病のたぐい――だろうというんだ。さっきも話した通り、河上には流れのゆるい、湖水《みずうみ》のようなところがある。そこには灌木や芦のたぐいが繁っている。島にいるものは始終そこへ水をくみに行く。そこに一種のマラリヤ熱のようなものが潜んでいて、蚊から伝染するか、あるいは自然に感染する
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