に清い水を一杯くんで来た。水の上はいよいよ薄暗くなって、一種の霧のような冷たい空気が芦の茂みから湧き出して来た。
「今夜も降るかも知れませんね。」と、勇造はバケツをさげながら空を仰いだ。三人の頭の上には、紫がかった薄黒い雲の影がいつの間にか浮かんでいた。
「むむ、今夜も驟雨《シャワー》かな。」と、丸山も空を見た。「しかし大したことはありませんよ。大抵一時間か二時間で晴れますよ。」と、かれは高谷君に言った。
 それにしても驟雨が近づいたと聞いては、ここらにうろうろして居るわけにもいかないので、高谷君はもう小屋へ帰ろうと言った。
 三人はもと来た堤をつたって麻畑へ出て、小屋の前へもどってくると、大勢の労働者は仕事をしまって、そこに整列していた。
「今夜も隣りへ行くのか。」と、丸山は笑いながら言った。
 大勢は挨拶して河下の方へ降りて行った。さっきも話した通り、かれらは小舟でとなりの島へ泊りに行くのであると、丸山は高谷君にまた説明した。そうして、勇造に命じて夕飯の支度にかからせた。
 日が暮れると果たして激しい驟雨がおそって来た。その雨のひびきを聞きながら高谷君は夕飯を食った。

     
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