な、濁った水の流れを見つめていた。
三人はまた黙って河上の方へ遡《のぼ》って行った。空はまだ美しく輝いていたが、堤のあちらはもうそろそろ薄暗くなって来た。水の音もだんだんに静かになって来た。丸山は水を指さして、また説明した。
「ここから上流の方は水勢がよほど緩《ゆる》いんです。河底の勾配《こうばい》にも因りましょうが、もう一つには天然の堰《せき》が出来ているからです。」
ここらへ来ると、河底から大きい岩が突出していた。何百年来河上から流れてくる大木の幹や枝がその岩にせかれて重なり合って、自然の堤を築いているので、そこには大きい湖水《みずうみ》のようなものを作って、岸の方には名も知れない灌木《かんぼく》や芦《あし》のたぐいが生い茂っていた。
「この通り、ここらは流れが緩いもんですから、みんなここへ来て水を汲んだり、洗濯物をしたりするのです。遠い昔から自然にこうなっているんでしょうが、まことに都合よく出来ていますよ。」と、丸山は笑った。「第一、下流の方は水が濁っていて、とても飲料にはなりませんからね。」
勇造は如才なくバケツを用意して来ていた。かれは灌木をくぐり水ぎわへ降りて、比較的
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