って見おろすと、流れはずいぶん急で、堤の赭土《あかつち》を食いかきながら、白く濁った泡をふいて轟々《ごうごう》と落ちて行った。
 丸山はステッキでその水を指さした。
「ごらんください。この河が境になって、河むこうはあの通りの藪《やぶ》になっているんです。怪物がもしあの藪から出て来るとすれば、どうしてもこの河を渡らなければならない訳ですが、ここを横切るということは容易じゃあるまいと思われるんです。人間は無論ですが、猿にしても蛇にしても、あるいは得体《えたい》の知れない猛獣にしても、この河を泳いでわたるのは大変でしょう。といって、河のこっちはもうみんな開けているので、なんにも棲んでいる筈はありません。どう考えても怪物はその河むこうに棲んでいるか、あるいは海の方から襲って来るか、この二つよりほかにありませんが、もし海から襲って来るとすれば、隣りの島へも来そうなものです。しかし原住民の話によると、隣りの島にはかつてそんな不思議はないということです。あなたのお考えで、この大きい河を渡って来るような動物がありましょうか。」
「さあ、なにしろ急流ですからね。」と、高谷君は怖ろしい秘密を包んでいるよう
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