片をひき裂いて、高谷君は万年筆でその用向きを書いた。原住民はそれを受取って、すぐに小舟に乗って使いに行くといった。今夜ここに泊ると決定した以上、高谷君はその附近の地理をよく見さだめて置く必要があるので、もう一度そこらを案内してくれまいかというと、丸山はこころよく承知して一緒に出た。
 空はまだ明るかった。貝殻の裏を覗《のぞ》いたような白い大空が、この小さい島の上を弓形《ゆみなり》に掩《おお》って、その処々に黄や紅の斑《ふ》を打ったような小さい雲のかたまりが漂っていた。高谷君は今更のように、その美しい空の色どりを飽かずにながめた。麻畑のなかには大勢の日本人が原住民と入りまじって、麻の葉を忙がしそうに刈っているのが見えた。かれらは大きい帽子をかぶっているので、その顔はよく見えなかったが、おそらく夜の悪夢におそわれたような心持で、昼も仕事をつづけているのであろう。高谷君と丸山とのうしろには、かの勇造もついて来た。
「もう一つ判らないことがあるんですよ。」と、丸山は麻畑をぬけた時に言った。
 三人の眼の前には大きい河が流れていた。その濁った水が海へそそぐであろうと、高谷君は想像した。低い堤に立
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