小屋に残っているんですが、この二、三日はなんにも怪しい形跡も見えません。敵もこっちの油断を狙って来るらしいんですから、一度いたずらをすると当分はやって来ないようです。そこで、こっちが少し安心すると、その油断を見て不意に襲って来る。いつもその手でやられるのですから、今夜あたりはもう油断ができませんよ。」
 高谷君も一種の好奇心にそそられて、自分も今夜はこの小屋に泊って、その怪物の正体を見届けたいと思った。その話をすると、丸山も非常に喜んだ。
「どうかそうしてください。あなたも一緒にいて下されば、我れわれも大いに気丈夫です。あなたの御助力で、どうかこの怪物の正体を確かめたいものです。どうでお構い申すことは出来ませんが、あなたの寝道具《ねどうぐ》ぐらいはありますから。」
「どうで徹夜の考えですから、寝道具などはいりません。夜がふけると冷えるでしょうから、毛布が一枚あれば結構です。しかし私がいつまでも帰らないと、船の者が心配するでしょうから、誰か私の手紙をとどけてくれる者はありますまいか。」
「ええ、雑作《ぞうさ》もありません。」と、丸山は勇造に言付けて、ひとりの原住民を呼ばせた。
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