こうなると、高谷君の議論もよほど影の薄いものになって来た。麻畑へ忍んでくる怪物は、野蛮人でも猿でもないらしかった。その次の問題は蟒蛇《うわばみ》である。うわばみが這《は》い込んで来て、ひと息に呑んでしまうのではないかとも考えたが、蛇も火を恐れる筈である。殊に夜なかに這い出して来るかどうかも疑問であった。鰐《わに》も陸《おか》へあがることがある。あるいは鰐ではないかという説も出たが、ここらの原住民は鰐に就いては非常に神経過敏であるから、その匂いだけでもすぐにそれと覚ることが出来る。原住民は決して鰐ではないと主張している。では大|蜥蜴《とかげ》かという説も出たが、とかげが人を喰おうとは思われない。たとい喰ったとしても、骨も残さずに呑み込んでしまう筈はない。結局それは野蛮人の仕業であろうということになったが、丸山はまだそれを信じないらしかった。
「もしここらの森や山の蔭に、我れわれの知らない野蛮人が棲んでいるとしても、原住民もかつてそんな人間らしいものを認めたことがないというんです。とにかく私も余り残念ですから、ほかの者だけを隣りの島へ泊りにやって、私とこの勇造のふたりだけは毎晩強情にこの
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