三
ここらの驟雨は内地人が想像するようなものではなかった。まるで大きい瀑布《たき》をならべたように一面にどうどうと落ちて来て、この小屋も押流されるかと危ぶまれた。雨の音がはげしいので、とても談話などは出来なかった。高谷君と丸山とはうす暗い部屋のなかに向い合って、だまって煙草をすっていた。テーブルの上には蝋燭《ろうそく》の火がぼんやりと照らしていたが、それも隙間《すきま》から吹き込んでくる飛沫《しぶき》に打たれて、幾たびか消えるので、丸山もしまいには面倒になったらしく、消えたままに捨てて置いたので、小屋のなかは真の闇になってしまった。ただ時どきに二人がするマッチの光りで、主人と客とが顔を見合せるだけであった。
となりの部屋では勇造が夕飯のあと片付けをしているらしく、板羽目《いたばめ》の隙間から蝋燭の火がちらちら揺らめいていたが、それもしまいには消えてしまったらしい。雨は小やみなしに降っていた。
「随分ひどい。今夜はいつもより余ほど長いようだ。」と、暗いなかで丸山は言った。
高谷君はマッチをすって懐中時計を照らしてみると、今夜はもう九時を過ぎていた。この暗い風雨の夜、しかも恐ろしい
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