百物語
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)上州《じょうしゅう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一旦|本復《ほんぷく》して
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今から八十年ほどの昔――と言いかけて、O君は自分でも笑い出した。いや、もっと遠い昔になるのかも知れない。なんでも弘化元年とか二年とかの九月、上州《じょうしゅう》の或る大名の城内に起った出来事である。
秋の夜に若侍どもが夜詰《よづ》めをしていた。きのうからの雨のふりやまないで、物すごい夜であった。いつの世もおなじことで、こういう夜には怪談のはじまるのが習いである。そのなかで、一座の先輩と仰がれている中原武太夫という男が言い出した。
「むかしから世に化け物があるといい、無いという。その議論まちまちで確かに判らない。今夜のような晩は丁度あつらえ向きであるから、これからかの百物語というのを催して、妖怪が出るか出ないか試してみようではないか。」
「それは面白いことでござる。」
いずれも血気の若侍ばかりであるから、一座の意見すぐに一致して、いよいよ百物語をはじめることになった。まず青い紙で行燈《あんど
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