う》の口をおおい、定めの通りに燈心百すじを入れて五間《いつま》ほど距《はな》れている奥の書院に据えた。そのそばには一面の鏡を置いて、燈心をひと筋ずつ消しにゆくたびに、必ずその鏡のおもてを覗いてみることという約束であった。勿論、そのあいだの五間《いつま》にはともしびを置かないで、途中はすべて暗がりのなかを探り足でゆくことになっていた。
「一体、百ものがたりという以上、百人が代るがわるに話さなければならないのか。」
 それについても種々の議論が出たが、百物語というのは一種の形式で、かならず百人にかぎったことではあるまいという意見が多かった。実際そこには百人のあたま数《かず》が揃っていなかった。しかし物語の数だけは百箇条を揃えなければならないというので、くじ引きの上で一人が三つ四つの話を受持つことになった。それでもなるべくは人数が多い方がいいというので、いやがる茶坊主どもまでを狩りあつめて来て、夜の五つ(午後八時)頃から第一番の浦辺四郎七という若侍が、まず怪談の口を切った。
 なにしろ百箇条の話をするのであるから、一つの話はなるべく短いのを選むという約束であったが、それでも案外に時が移って、
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