放し鰻
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)裏店《うらだな》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)本所|相生町《あいおいちょう》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)めそっこ[#「めそっこ」に傍点]鰻が
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E君は語る。
本所|相生町《あいおいちょう》の裏店《うらだな》に住む平吉は、物に追われるように息を切って駈けて来た。かれは両国の橋番の小屋へ駈け込んで、かねて見識り越《ご》しの橋番のおやじを呼んで、水を一杯くれと言った。
「どうしなすった。喧嘩でもしなすったかね。」と、橋番の老爺《おやじ》はそこにある水桶の水を汲んでやりながら、少しく眉をひそめて訊いた。
平吉はそれにも答えないで、おやじの手から竹柄杓《たけびしゃく》を引ったくるようにして、ひと息にぐっと飲んだ。そうして、自分の駈けて来た方角を狐のように幾たびか見まわしているのを、橋番のおやじは呆気《あっけ》に取られたようにながめていた。文政末年の秋の日ももう午《ひる》に近づいて、広小路の青物市の呼び声がやがて見世物やおででこ芝居の鳴物《
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