うで、顔の作りなども好く出来ているので、ちょっと見ては、外国人とは思えないくらいでした。しかしこの人も台詞をひどく伸ばして、しかも抑揚の少い一本調子の英語で押通しているのが耳障りでした。例の「奥にはぱったり[#「ぱったり」に傍点]首打つ音」は、なんにも音を聞かせないで、単に松王がよろけるだけですが、それでも観客に得心させるように遣っていたのは巧いものです。首実検の時に手を顫《ふる》わせながら、懐紙《かいし》を口にくわえる仕種《しぐさ》などをひどく細かく見せて、団十郎式に刀をぬきました。ここでも首は見せません。首桶を少し擡《もた》げるだけでしたが、観客はみな恐れるように眼を伏せていました。
松王も千代も二度目の出には、やはり引抜いて白の着附になりましたが、松王は※[#「ころもへん+上」、第4水準2−88−9]※[#「ころもへん+下」、第4水準2−88−10]《かみしも》を着ていませんでした。それでも柄が立派なのでちっとも見そぼらしいとは思えませんでした。松王が身がわりの秘密を打明ける件《くだり》になると、婦人の観客のうちにはハンカチーフを眼にあてているのが沢山ありました。要するに観客は
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