々ばかりでなく、おなじように断られて雨のなかをすごすご帰ってゆく婦人などが沢山あります。もう仕様がないと諦めかけると、清原君は俄《にわか》に智慧を出して、今夜ここに早川雪洲夫人が来ているかと訊くと、来ているという。それでは早川君に頼んでなんとかしてもらいたいと、清原君が名刺を出して頼むと、女は承知して奥に這入《はい》りました。外ではまだ雨が降っています。そんな押問答をしているうちに、肝腎の松王劇が済んでしまっては詰まらないと思って、わたしは首を長くして内をのぞいていると、やがて女は再び出て来て、到底普通の椅子席はないが、立見同様でよければ案内して遣《や》るという。それで結構とすぐに案内されて這入ると、なるほど会員組織らしい小劇場で、二階もなんにもない、極めて質素な小さい建物でした。しかし立派な服装の人たちが一杯に席を埋めていました。
私たちは補助椅子といったようなものをあてがわれて、隅の方に小さく控えていると、第二の一幕物がもう終るところでした。プログラムを観ると第三が松王で、それが今度の呼物であるということが判りました。この松王は欧洲でも上場されたことがあり、米国では紐育《ニューヨ
前へ
次へ
全9ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング