平造もまんざら忌《いや》ではないらしい様子で、その後も相変らず尋ねてまいりました。八月のはじめに参りました時に、わたくしは再び娘の縁談を持出しまして、主人の家来のというのは昔のことで、今はわたし達がお前の世話になっているのであるから、身分の遠慮には及ばない。娘もおまえを慕っているのであるから、忌《いや》でなければ貰ってくれと申しますと、平造はやはり嬉しいような困ったような顔をして、自分は決して忌ではないが、その御返事は今度来る時まで待っていただきたいといって帰りました。それから八月の末になって、平造はまた参りましたが、あいにくわたくしは寺参りに行った留守でございまして、お鶴と二人で話して帰りました。
その時に娘と差向いでどんな話をしたのかよく解りませんが、平造は縁談を承知したらしいような様子で、お鶴は嬉しそうな顔をしていました。しかしお鶴の話によりますと、平造が帰るのを店先に立って見送っていると、ここらでは見馴れない女の児が店へはいって来たそうです。買物に来たのだと思って、なにを差上げますと、声をかけると、その女の児は怖い顔をして、おまえは殺されるよと言ったぎりで、出て行ってしまった
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