ということで……。うれしい中にもそれが気にかかるとみえまして、それを話した時には、お鶴もなんだか忌《いや》な顔をしておりましたが、なに、子供の冗談だろうぐらいのことで、わたくしは格別に気にも止めずにおりましたところ、それから五、六日経たないうちに、娘はほんとうに殺されてしまいましたのでございます。」
 この申立てによると、お鶴の死は平造との縁談に何かの関係があるらしく思われた。しかもお鶴に対して怖ろしい予告をあたえた少女は何者であるか、それは勿論わからなかった。おすまも留守中のことであるので、その少女の人相や風俗を知らなかった。
 ここにひとつの疑問は、平造がおすま親子に対して、自分の住所や勤め先を明らかにしていないことであった。単に横浜の外国商館に勤めているというだけで、かれはその以外のことをなんにも語らなかったのである。世間を知らない親子はさのみそれを怪しみもしなかったのであるが、これほどの関係になっていながら、それを明かさないのは少し不審である。彼は商館に寝泊りしていると言っていたそうであるが、それがどうも疑わしいので、念のために横浜の外国商館を取調べてみたが、どこにも村田平造と
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