見る影もなく落ちぶれております。それを平造はひどく気の毒がりまして、その後は毎月二、三度ずつ横浜から尋ねて来て、いろいろの面倒を見てくれますばかりか、来るたびごとに幾らかずつの金を置いて行ってくれました。いっそ小商《こあきな》いでも始めてはどうだと申しまして、唯今の店も買ってくれました。そのお蔭で、わたくし共もどうにかこうにか行き立つようになりますと、平造はもうこれぎりで伺いませんと申しました。わたくし共もこの上に平造の世話になる気はございませんから、それぎりで別れてしまってもよかったのでございますが……。娘のお鶴は平造の親切に感じたのでございましょう。内々で慕っているような様子がみえます。わたくしも出来るものならば、ああいう男を娘の婿にしてやりたいという気も起りましたので、金銭の世話は別として、相変らず尋ねて来てくれるように頼みました。そうして、お鶴を貰ってくれないかというようなことも仄《ほの》めかしますと、平造は嬉しいような、迷惑らしいような顔をしまして、御主人のお嬢さまをわたくし共の家内に致すのは余りに勿体のうございますからという、断りの返事でございました。
そうは言うものの、
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