をつくのみ。玉琴は這い寄る。)
玉琴 与五郎どの……。おん身をここへ誘うて来ずば、こうしたことにもなるまいものを……。
与五郎 おお、この上は是非も無し、かれは生きて源氏を呪わんと云う……われは死して彼を呪わん。玉虫……。おのれもやがて思い知ろうぞ。
玉虫 人に執念のないものは無い。われもひとを恨めば、ひとも我を恨もう。つまりは五分五分じゃ。恨まば恨め、七生の末までも恨むがよい。
与五郎 おのれ……。
(起たんとしてよろめくを、玉琴は支えんとしてすがりつく。)
与五郎 最早これまで……。玉琴……。
玉琴 与五郎どの……。
(与五郎は刀をとりなおして玉琴の胸を刺し、返す刀にてわが腹に突き立て、引きまわして倒る。下のかたの木かげより雨月再びうかがい出で、垣の外にひざまずきて合掌す。玉虫は見咎める。)
玉虫 そこにいるは誰じゃ。
雨月 (しずかに。)わたくしでござりまする。
玉虫 むむ、宗清か。遠慮はない、これへ来や。
雨月 いや、まいりますまい。わたくしは御仏《みほとけ》に仕えまする者。仏道と魔道とは相さること億万里、お前様のそばへは参られませぬ。
玉虫 それ程わらわがおそろしいか。
雨月
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