して、お前をすてて行かれましょうか。
与五郎 共々にお越し下さらば、それがしに取っても義理の姉上、決して疎略には存じ申さぬ。玉琴が切《せつ》なる願い、なにとぞ勘当をゆるされて、われわれと共に本国にくだり、安らけく世を送られい。那須は草ふかき村里なれど、歌によむ白河の関にも遠からず、那須野が原には殺生石《せっしょうせき》の旧蹟もござる。二荒《ふたら》の宮には春の桜、塩原の温泉《いでゆ》には秋のもみじ、四季とりどりの眺めにも事欠かず、よろずに御不自由はござりませぬ。
玉虫 御芳志は千万かたじけない。ついては玉琴。まずそなたに問いたいことがある。もしわらわが飽くまでも不承知と云うたら、そなたはどうしやるぞ。
玉琴 さあ。
玉虫 わらわを捨てても、与五郎どのと一緒にゆくであろうな。
(玉琴黙して答えず。玉虫はうなずく。)
玉虫 返事のないは、大方そうであろうの。よい、よい。それほどまでに思い合うた二人が仲を今更ひき裂くこともなるまい。わらわが許して女夫《めおと》にしましょうぞ。
玉琴 え。では、勘当をお赦しあって……。
玉虫 姉が媒酌《なかだち》して杯をさせましょう。
玉琴 ありがとうござりま
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