風呂を買うまで
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)羨《うらや》んで
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅草|千束町《せんぞくちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から3字下げ]宿無しも今日はゆず湯の男哉
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わたしは入浴が好きで、大正八年の秋以来あさ湯の廃止されたのを悲しんでいる一人である。浅草|千束町《せんぞくちょう》辺の湯屋では依然として朝湯を焚くという話をきいて、山の手から遠くそれを羨《うらや》んでいたのであるが、そこも震災後はどうなったか知らない。
わたしが多年ゆき馴れた麹町《こうじまち》の湯屋の主人は、あさ湯廃止、湯銭値上げなどという問題について、いつも真先に立って運動する一人であるという噂を聞いて、どうも好くない男だとわたしは自分勝手に彼を呪《のろ》っていたのであるが、呪われた彼も、呪ったわたしも、時をおなじゅうして震災の火に焼かれてしまった。その後わたしは目白に一旦《いったん》立退《たちの》いて、雑司《ぞうし》ヶ|谷《や》の鬼子母神《きしもじん》附近の湯屋にゆくことに
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