父であるから、なんとかしてその正体を見破って、臆病どもの鼻をあかしてやろうぐらいの意気込みで出かけた。それは六月のなかばで、旧暦ではやがて土用に入ろうというカンカン天気のあつい日であった。
 父の行ったのは午後の八つ半頃(午後三時)で、きょうは朝から一度も石が落ちないとのことであった。詰めている人達も退屈凌ぎに碁などを打っていた。長い日もようやく暮れて、庭の古池のあたりから遅い蛍が二つ三つ飛び出した頃に、天井から小さい石が一つ落ちた。人々は十二畳の書院にあつまっていたのであるが、この音を聞いて今更のように天井をみあげた。父はその石を拾ってみたがそれは何の不思議もない小砂利に過ぎなかった。石はそれぎりで、しばらく落ちて来なかったが、夜の四つ(十時)過ぎからは幾たびも落ちた。
 石は天井のどこから落ちて来るのか、ちっとも見当が付かなかった。一人でも天井を睨んでいるあいだは、石は決して落ちないのである。退屈して自然に首をさげると、その隙を窺っていたように石がこつりと落ちてくる。決してばらばらと降るのではない、唯一つ静かに落ちてくるのである。毎晩のことであるから、どの人ももう根負けがしたらしく
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