ときまったことはなかったが、玄関から中の間につづいて、十二畳と八畳の書院がある。怪しい石はこの書院に落ちる場合が多かった。おそらく鼬《いたち》か古鼠の所為であろうというので、早速に天井板を引きめくって検査したが、別にこれぞという発見もなかった。最初は夜中にかぎられていたが、後には昼間でもときどきに落ちることがある。石はみな玉川砂利のような小石であった。これが上屋敷にもきこえたので、若侍五、六人ずつが交代で下屋敷に詰めることになったが、石は依然として落ちてくる。そうして、何人《なんぴと》もその正体を見とどけることが出来ないのであった。
勿論、屋敷の名前にもかかわるというので、固く秘密に付していたのであるが、口の軽い若侍らがおしゃべりをしたとみえて、その噂がそれからそれへと伝わった。わたしの父はその藩中に親しい友達があったので、一種の義勇兵としてこの夜詰に加えてもらうことを頼んだ。表向きには到底そんなことは許されないのであるが、幸いにそれが下屋敷であるのと、他の若侍にも懇意の者が多かったので、まあ遊びに来たまえといったようなことで、ともかくも一度その夜詰の仲間に加えられた。妖怪を信じない
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