でござります。あばらの骨を幾枚も踏み折られてしまいました。」
「むごい事をしたな。」
「わたくしも実に驚きました。」と、おもよはいよいよ声を陰らせた。「それも淫奔《いたずら》の罰《ばち》かも知れません。」
「隣り村の若い者が一緒にいたのだそうだな。それは無事に逃げたのか。」
「それは隣り村の鉄作と申す者で、やはり男でござりますから、お福を置き去りにして真っ先に逃げてしまったと見えます。」と、おもよは少しく恨み顔に言った。「お福はわたくしの生みの娘で、ことし三十八になります。次郎兵衛というものを婿にもらいましたが、夫婦の仲に子供がございませんので、おらちという貰い娘《ご》をいたしまして、それはことし十六になります。次郎兵衛はおととしの夏に亡くなりまして、その後は女三人でどうにかこうにか暮らしておりますと、お福はいつの間にか隣り村の鉄作と……。鉄作はことし確か二十歳《はたち》の筈で、おらちと従弟《いとこ》同士にあたりますので、ふだんから近しく出入りは致しておりましたが、お福とは親子ほども年が違うのでござりますから、わたくしもよもやと思って油断しておりますと、飛んでもない淫奔から飛んでもない
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