の上に重く掩いかかっていた。
留守番はもちろん不平であったが、茂左衛門は年の若いだけに我慢しなければならなかった。土間にころがしてある切株《きりかぶ》に腰をかけて、彼は黙って表の闇を睨んでいると、おもよは湯を汲んで来てくれた。
「御苦労さまでござります。」
「大勢がいろいろ世話になるな。」と、茂左衛門はその湯をのみながら言った。それが口切りとなって、おもよは海馬の話をはじめた。茂左衛門も心得のためにいろいろのことを訊いた。
「ここの女房は飛んだ災難に逢って、気の毒であったな。」
「まことに飛んだ目に逢いましてござります。」と、おもよは眼をうるませた。「しかし立派なお侍さまさえもあんな事になるのでござりますから、わたくし共の娘などは致し方がござりません。」
立派な侍さえもあんな事になる――それが一種の侮辱のようにも聞かれて、年の若い茂左衛門は少しく不快を感じたが、偽《いつわ》り飾りのない朴訥《ぼくとつ》の老婆に対して、彼は深くそれを咎める気にもなれなかった。それにつけても市五郎らの失敗を彼は残念に思った。
「ここの女房は海馬に踏み殺されたのだな。」と、茂左衛門はまた訊いた。
「さよう
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