あ。
眞弓 それ。
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(眞弓は眼で知らすれば、陸尺は乗物を舁《か》きよせる。眞弓は乗物に乗りしが、再び首を出す。)
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眞弓 これ、播磨。そちが悪あがきをすると云ふも、一つにはいつまでも独身《ひとりみ》でゐるからのことぢや。この間もちよつと話した飯田町の大久保の娘、どうぢや、あれを嫁に貰うては。
播磨 さあ。(迷惑さうな顔。)喧嘩のことは兎もかくも、その縁談の儀は……。
眞弓 忌《いや》ぢやと云ふのか。(かんがへる。)ほかの事とも違うて、これは無理強ひにもなるまいか。そんならそれはそれとして、かへすがへすも白柄組とやらの附合は、きつと止めねばなりませぬぞ。
播磨 はあ。
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(眞弓は乗物の戸をしめる。若党等は播磨に一礼して向うへ乗物を舁《か》いてゆく。)
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權次 殿様。悪いところへ伯母御様がお見えになりまして。
權六 わたくし共までが飛んだお灸を据ゑられました。
播磨 (笑ふ。)伯母様は苦手ぢや、所詮あたまは
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