上らぬわ。今伯母様に叱られた、その白柄組の水野どのは、仲間のものを誘ひ合せて、今夜わが屋敷へまゐらるゝ筈ぢや。酔うたら又面白い話があらう。
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(風の音して桜の花ちりかゝる。)
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播磨 おゝ、散る花にも風情があるなう。どれ、そろ/\帰らうか。
權次權六[#「權次」と「權六」は横並びになっている] はあ。
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(權次は茶代を置く。娘は礼をいふ。播磨は行きかゝる。)
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第二場
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番町青山家の座敷。二重屋体にて上《かみ》のかたに床の間、つゞいて襖。庭には飛び石。上の方に井戸ありて、井戸のほとりに大いなる柳を栽ゑたり。おなじ日の夕刻。
(上の方より庭づたひに、用人柴田十太夫が先に立ち、腰元お菊、お仙の二人出づ。ふたりは高麗焼《かうらいやき》の皿五枚を入れたる箱を持つ。)
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十太夫 これ、大切の御品ぢや。気をつけて持つてゆけ。よいか。
二人 かしこまりました。
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