で、御料理の器《うつは》にそのお皿をおつかひなさる。又しても諄《くど》く申すやうぢやが、一枚一枚鄭重に取りあつかへ。割るは勿論、疵《きず》をつけても一大事ぢやぞ。よいか。
二人 はい、はい。
十太夫 殿様がお帰りになるまでに、あちらのお客間を取片附けて置かねばならぬ。では、そのお皿を元のやうに箱に入れて、お勝手の方へ運んでおけ。やれ、忙しいことぢや。
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(十太夫はそゝくさと庭に降りて上《かみ》の方《かた》に去る。お仙はあとを見送る。)
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お仙 ほんにいつも/\気ぜはしいお人ぢや。併しそれほど大切なお皿ならよく気をつけて取扱はねばなるまい。なう、お菊どの。はて、お前は何をうつとりとしてゐるのぢや。
お菊 (突然に。)お仙どの。
お仙 なんぢやえ。
お菊 このごろ殿様は御縁談があるとかいふ噂ぢやが、お前それをほんたうと思ふかえ。
お仙 さあそれは、新参のわたしには判らぬが、なにやらそんなお噂がないでも無いやうな。
お菊 無いでもないやうな。(口のうちで繰返す。)若しあつたとしたら。
お仙 おめでたい
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