半七捕物帳の思い出
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)油然《ゆうぜん》
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 初めて「半七捕物帳」を書こうと思い付いたのは、大正五年の四月頃とおぼえています。そのころ私はコナン・ドイルのシャアロック・ホームスを飛び飛びには読んでいたが、全部を通読したことがないので、丸善へ行ったついでに、シャアロック・ホームスのアドヴェンチュアとメモヤーとレターンの三種を買って来て、一気に引きつづいて三冊読み終ると探偵物語に対する興味が油然《ゆうぜん》と湧き起って、自分もなにか探偵物語を書いてみようという気になったのです。勿論その前にもヒュームなどの作も読んでいましたが、わたしを刺戟したのはやはりドイルの作です。
 しかしまだ直《すぐ》には取りかかれないので、更にドイルの作を猟《あさ》って、かのラスト・ギャリーや、グリーン・フラグや、キャピテン・オブ・ポールスターや、炉畔物語《ろはんものがたり》や、それらの短篇集を片端《かたはし》から読み始めました。しかし一方に自分の仕事があって、その頃は『時事新報』の連載小説の準備もしなければならなかったので、読書もなかなか
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