にもはいって、内々で探索をしていると云うことだから、嘘か本当かは自然に判るだろうけれど……。まあ当分は日が暮れてから外へ出ないに限りますよ。姉さんばかりじゃない、お年も気をおつけなさい」
 娘たちを戒《いまし》めて、その晩は早く寝床に就いたが、表に風の音がきこえるばかりで、ここの家には何事もなかった。明くる朝はお北の気分もいよいよ好くなったが、それでも用心してもう一日寝ていることにしたので、弟の長三郎が代って門前を掃きに出ると、となりの黒沼には男の子がないので、下女のお安が門前を掃いていた。
 ここで長三郎は、お安の口から更に不思議なことを聞かされた。
 ゆうべの夜なかに、病人のお勝が苦しそうに唸《うな》り声をあげたので、父の伝兵衛が起きて行ってうかがうと、お勝の部屋には燈火《あかり》を消してあって、一面に暗いなかに小さい白い影が浮いて見えた。それは白い蝶である。蝶は羽《はね》をやすめてお勝の衾《よぎ》の上に止まっている。伝兵衛は床の間の刀を取って引っ返して来て、まずその蝶を逐《お》おうとしたが、蝶はやはり動かない。伝兵衛は刀の鞘のままで横に払うと、蝶はひらひらと飛んで自分の寝巻の胸に
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