合わせの菓子折か何かを持って、直ぐに隣りへ出て行った。その留守に、お北は妹を枕もとへ呼んで、ゆうべの夢のことに就いて更に詮議すると、お年は確かに姉さんが白い蝶々になった夢をみたと云った。子供の夢ばなしなど、ふだんは殆ど問題にもならないのであるが、今のお北に取っては何かの意味ありげにも考えられた。彼女はなんだか薄気味悪くなって、この部屋のどこかに蝶の白い影が迷っているのでは無いかと、寝ながらに部屋の隅々を見まわした。
 半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]ばかりの後に、お由は帰って来て、娘の枕もとで又こんな事をささやいた。
「おまえとは違って、お勝さんはどうも容態《ようだい》がよくないようで、丁度お医者を呼んで来たところさ。お医者は質《たち》の悪い風邪だと云ったそうだけれど、小父さんはよっぽど心配しているようだったよ」
「小父さんは何と云っているのです」
「黒沼の小父さんはまだ本当にはしていないらしいのだがね。それでも自分の娘が悪くなったし、お前も確かにその蝶々を見たと云うのだから、少し不思議そうに考えているようだったが……。黒沼の小父さんの話では、それがもう町方《まちかた》の耳
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