は心願《しんがん》が破れると云ってお近は承知しないばかりか、却って幸之助に迫って、お冬らの警戒を命じた。寺門前で藤助を救った覆面の曲者は幸之助であった。しかも気の弱い彼は、いつまでもお近に脅迫されて、こんな仕事にかかり合っているに堪えられなくなったので、その夜のうちに音羽を立ち去って、夜ふけに白魚河岸の実家の門《かど》を叩くと、父の幸右衛門は一切の事情を聞いて、この上はこの屋敷に一と晩も泊めることはならぬ、おれにも考えがあるから、ともかくも向島の五兵衛の家《うち》へ行っていろと指図した。その指図通りに向島へゆくと、あくる日の夕方に今井理右衛門が来た。つづいて瓜生長三郎が来た。岡っ引の吉五郎と兼松が来た。お冬の死と共に、幸之助の運命もここに定まったのである。
佐藤孫四郎がなぜ自滅したか、この謎は遂に解けなかったが、それに就いて、幸之助はこんなことを洩らした。
「お近はわたくしに向かって、佐藤は長崎にいるあいだにいろいろの悪いことをしている。それをわたしは皆んな知っているから、わたしがどんな我が儘をしても、佐藤は何んとも云うことが出来ない筈だと申したことがございます」
佐藤は長崎に出役
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