うして入水《じゅすい》したかと云うことである。果たして自殺か、あるいは他殺か、いずれにしても、黒沼幸之助が唯一の関係者として厳重に吟味されたが、幸之助もそれに就いては何事も知らないと云い切った。ただ、お近が殺される日の夕刻、お北は夕飯を運んで来た女中の隙をみて、土蔵をぬけ出したことだけは知っていると申し立てた。
さらに探索すると、市川屋の職人源蔵も最初は隠していたが、その後の申し立てによると、お北は佐藤の屋敷をぬけ出したものの、直ぐに我が家へも帰られず、途中でうろうろしている時、あたかも彼《か》の源蔵に出逢って、隣家のお勝が自害のことを聞いたと云う。それに因って推察すると、お北はおのれの罪を悔いたか、或いはしょせん無事に済まぬと覚悟して、其処らをさまよい歩いた後、夜に入るを待って入水したのであろう。地理の関係とは云いながら、恋のかたきのお近もお北も、その死骸を同じ流れに浮かべたのは、何かの因縁であるかとも思われた。
向島の植木屋五兵衛は、親の代から佐藤と吉田の屋敷に出入りの職人である。この頃は町方の手が廻ったらしいので、白蝶の一件は暫く中止するように幸之助は注意したが、中途で止めて
前へ
次へ
全165ページ中162ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング