たように、いよいよ無遠慮に男の手を把《と》った。
こんな女に係り合っていて、理右衛門のすがたを見失ってはならないと思ったので、長三郎は把られた手を振り払って小屋の外へ出ると、ひと筋道の田圃には侍のうしろ姿が遠く見えた。それを慕って歩き出すと、田圃に沿うて小さい田川が流れている。その田川が右へ曲がったところに狭い板を渡して、一軒の藁葺《わらぶき》の家が見いだされた。周囲は田畑で、となりに遠い一軒家である。型ばかりのあらい籬《まがき》を結いまわして、あき地もないほどにたくさんの樹木が植え込んであるので、それが植木屋ではないかと長三郎は思った。門《かど》には一本の大きい桃が紅《あか》く咲いていた。
理右衛門はそこに立ち停まって、一旦うしろを振り返ったが、やがて狭い板を渡って内へはいった。それを見とどけて、長三郎は足早にあるき出すと、お冬もあとから付いて来た。
「気をおつけなさい。あの侍はあなたを見たかも知れませんよ」と、彼女は小声で注意した。
長三郎はそんなことに頓着《とんぢゃく》していられなかった。彼は再びお冬をふり切って、一軒家を目ざして駈け出して、やがて門前へ行き着いて少しく躊躇
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