様では雨になるかと思ったら、思いのほかにのどかな日和《ひより》になった。堤の桜の咲くのももう直《じ》きだ」と、理右衛門は晴れた空を仰ぎながら云った。「して、綾瀬の親類へはなんの用で……。遊びに行くのかな」
「いえ」とは云ったが、長三郎は少し返事に困った。
「もしや姉さんを尋《たず》ねているのではないかな」と、理右衛門は小声で訊いた。
 理右衛門がどうしてそれを知っているかと、長三郎は一旦おどろいたが、彼が白魚河岸の吉田と懇意である以上、そこから幸之助や姉の家出一件を聞き知っているのであろうと察したので、長三郎は正直に答えた。
「実は少し心配のことがありますので……」
「むむ。その件については白魚河岸でも心配しているようだ」と、理右衛門はうなずいた。
「きのうも私が日本橋をあるいていると、岡っ引の吉五郎が私を呼び留めて、吉田の家《うち》のことを訊いていたが、あいつも今度の一件についての何かの探索をしているらしい。どうか大事になってくれなければいいが……。そこで余計なことを云うようだが、これから綾瀬まではなかなか遠い。わざわざ尋ねて行っても無駄かも知れないぞ」
「無駄でしょうか」と、長三郎
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