彼岸参りの人を待つかのように何となく賑わっていた。寺門前の花屋の店さきにも樒《しきみ》がたくさん積んであった。それを横眼に見ながら、長三郎は綾瀬村の方角をさして堤下を急いでゆくと、堤の細路を降りて来る一人の侍に出逢った。侍は長三郎に声をかけた。
「瓜生の御子息ではないか」
 呼ばれて見かえると、それは鯛の御納屋の今井理右衛門であった。瓜生の家と今井の家とは直接の交際はなかったが、同じ御納屋の役人同士であるから、今井と白魚河岸の吉田とは無論に懇意であった。その吉田と御賄屋敷の黒沼とは親戚関係であるので、瓜生の家でも自然に吉田を識り、それから惹《ひ》いて今井をも識るようになったのである。長三郎もその人を見て会釈すると、理右衛門は笑いながら訊いた。
「どこへ行かれる。御墓参かな」
「いえ。綾瀬村まで……親類かたへ参ります」
「それは御苦労。わたしは墓参で白髯《しらひげ》の辺まで行く。屋敷を遅く出たので、帰りは日が暮れるかも知れない。寺の遠いのは少し難儀だな……」と、理右衛門はまた笑った。
 綾瀬へゆく人、白髯へゆく人、勿論おなじ方角であるので、二人は列《なら》んで歩き出した。
「ゆうべの空模
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