もう斯うなったら仕方がねえ。方々に迷惑する人が出来るのだ。おめえも覚悟していてくれ」
「嚇《おど》かしちゃあいけねえ。おれはなんにも知らねえと云うのに……」と、鉄造は少しく弱い音をふき出した。
「おれは別に覚悟するほどの悪いことをしやあしねえ」
「これだけ云っても、おめえに判らなけりゃあ、もういいや。そんな野暮な話は止めにして、まあゆっくりと飲むとしようぜ」
吉五郎は手をたたいて酒の代りを頼んだ。肴もあつらえた。そうして、無言で酌をしてやると、鉄造もだまって飲んだ。吉五郎も黙って飲んだ。二人はややしばらく無言で猪口のやり取りをしていた。ただ時々に吉五郎は睨むように相手の顔を見た。鉄造も偸《ぬす》むように相手の顔色を窺った。
云うまでもなく、これは一種の精神的|拷問《ごうもん》である。こうして無言の時を移しているあいだに、うしろ暗い人間はだんだんに弱って来て、果ては堪えられなくなるのである。元来が図太い人間は、更にそのあいだに度胸を据え直すという術《すべ》もあるが、大抵の人間はこの無言の責め苦に堪え切れないで、結局は屈伏することになる。鉄造もこの拷問に堪えられなくなって来たらしく、手
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