ばかりじゃあねえ。大勢の奴らが係り合っているらしいから、糸屑だけでお冬とも一途《いちず》に決められねえ」と、吉五郎はまだ考えていた。「だが、まあ、今の話はこれだけにしよう。来たついでと云っちゃあ済まねえが、不動さまにお詣りをして別れようぜ」
二人は本堂の方へ足を向けた。
一二
親分と子分は不動堂の門前で別れて、留吉を乗せた駕籠は神田へ帰った。吉五郎は頬かむりをして音羽の大通りへ出ると、水引屋の市川屋の店さきに、子分の兼松が人待ち顔に腰をかけていた。彼は親分のすがたを見つけて、小走りに寄って来た。
「もし、面白いことがありそうですよ」
「むむ、どんなことだ」
兼松は振り返って小手招ぎをすると、店から職人の源蔵が出て来た。吉五郎に引き合わされて、彼は丁寧に会釈《えしゃく》した。
「わたくしは市川屋の職人で源蔵と申します。なにぶんお見識り置きを……」
「わたしも今後よろしく願います。そこで、兼。この源蔵さんという人に何か手伝って貰うことでもあるのかえ」と、吉五郎は訊いた。
「実はね」と、兼松は声をひくめた。「この源蔵がゆうべ変なことを見たと云うんです」
「なにを見たね」
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